トップページ ≫ 社会 ≫ アトムそしてアニメと共に歩んだ声優の自伝
社会
特に埼玉県、さいたま市の政治、経済などはじめ社会全般の出来事を迅速かつ分かりやすく提供。
今やアニメは世界に誇る日本文化となり、アニメの登場人物の声を受け持つ声優たちへの人々の関心度も高い。最近では『ドラえもん』の主役声優、大山のぶ代さんの認知症の話とか、同じ作品でのジャイアン役、たてかべ和也さんの訃報などが大きく報じられた。
そんな中、大ヒットした日本初の連続テレビアニメ『鉄腕アトム』の主人公、ロボットのアトムの声を担当した清水マリさんが自叙伝を刊行した。『鉄腕アトムと共に生きて――声優が語るアニメの世界』(さきたま出版会 1800円・税別)は著者サイン会も7月10日に浦和の須原屋本店で開かれ、平日の昼下がりにもかかわらず、大勢の人々が行列を作った。
映画やテレビで脇役・悪役として重厚な演技で活躍した清水元さん(故人)の第2子として、彼女は日中戦争が始まる前年の1936年に浦和で生まれた。小学生時代に米軍の空襲に遭ったり、食糧難にあえいだりしたが、戦後の混乱が落ち着くと、将来の夢として役者の道を意識し始める。高校も男女共学で演劇部が活発な浦和西高校へ。そこから俳優座養成所に進み、きら星のような仲間たちと演劇の勉強を重ねた後、劇団「新人会」の研究生になるが、人気漫画『鉄腕アトム』のテレビアニメ化にともない、主役の声をという話が舞い込む。
デモンストレーション用のパイロット版に声を吹き込むと、漫画の作者でもあり、アニメの制作者でもある手塚治虫さんが「アトムに魂が入った!」と大喜びで、アトム役が彼女に決まった。1963年1月1日からフジテレビで放送されたが、アニメ草創期のことで、何事も手探りだった。当時の苦労話が多数紹介されている。たとえば、当初は録音したテープに鋏を入れることができなかったので、1本24分の作品は、間にCMが入る前と後の12分を一気に録音しなければならない。一度失敗すると始めからやり直しになる。その後の急速な録音技術の進歩についても解説している。
1980年から日本テレビで始まった新『鉄腕アトム』でも手塚さんの鶴の一声で彼女の続投が決まる。2003年からの3回目のシリーズでアトム役声優が交代するまで40年もアトムと共に歩んできたわけだ。作者の手塚さんとのエピソードもふんだんに盛り込まれている。アトムを介在して手塚さんのメッセージを声優が語り、作者亡き今は彼女がそのメッセージを熱く代弁している。
最初の『鉄腕アトム』の途中で長女を出産するが、8本だけ代役を立てただけで、持ち前の頑張りで子育てをしながら声優業を全うする。出産・育児と仕事の両立という難問を、暗くならずに描いている。
アトムの役を降りてからは、かつての舞台への思いが再燃、地元浦和で劇団を立ち上げ、さらには児童劇団も結成した。みんなで協力し、泣いたり、笑ったり、怒ったりしているうちに自分の内面を見つめることにもなる演劇を「学校教育に取り入れたらよい」と思っているというが、子供たちによる公演で、著者が「奇跡が起こった」と感涙にむせぶ珠玉の体験が収録されている。
そして今、著者が注力しているのが朗読の会だ。40歳を過ぎてから、やはり浦和在住の俳優、小沢重雄さん(故人)に誘われて始めたのだが、「語る」ことの面白さに引きつけられた。活動の輪も広がり、公民館を中心に各地で指導、公演している。傘寿を目前にして元気いっぱい活動を続ける清水さんに教えられることは多い。
(さきたま出版会 電話048-711-8041)
山田 洋
バックナンバー
新着ニュース
- 島耕作、50年目の慶事が台無しに(2024年11月24日)
- 第31回さいたま太鼓エキスパート2024(2024年11月03日)
- 突然の閉店に驚きの声 スイートバジル(2024年11月19日)
- すぐに遂落した玉木さんの質(2024年11月14日)
特別企画PR