トップページ ≫ 社会 ≫ 教育 ≫ 中学入試~増え続ける「英語入試」のいま
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2月1日から都内の中学入試が始まっています。ある調査によると,今年(2016年度)の中学入試において「英語」で受験できる私立中学が,首都圏では前年(2015年度)に比べてほぼ倍増としているというのです。我々保護者世代が子どもの時には考えられなかった「小学生の英語入試」の実状について紹介していきます。
2016年度の中学入試において,帰国生ではない受験生になんらかの形で「英語」での受験を認める私立中学は,2015年度の33校から64校(男子校4,女子校23,共学37)に増えています。埼玉の私立中学では今年度,埼玉栄と埼玉平成,そして秀明の3校で実施されています。
受験科目の扱いとしては,国語・算数を必須として,英語・社会・理科から1教科選択の計3教科入試とする学校や,これまで通りの4教科入試に加えて国算英の3教科でも受験できる入試形態を増やした学校など,現時点において英語の使い道はさまざまです。
では,どうしてここにきて「英語」を入試に取り入れる学校が増えてきたのでしょうか。1つ目は受験生確保のための「優遇制度」としての扱いです。例えば「英検4級以上」などの規定を設けて,それをクリアしている生徒に対しては減免制度を適用したり,あるいは当日の試験で得点を加算するケースも見受けられます。なかには出題レベルの目安(例:英検3級程度)を事前に提示している学校もあり,共通しているのは,こうした制度によって「これまでであれば中学受験をしていなかった層」の取り込みを狙っていることです。中学受験塾ではなくて英会話スクールに通い続けていた生徒,英検などの検定に合格はしているものの本格的な受験勉強はしてこなかった生徒であっても,英語で受験できるとなれば私立中学を進学先の選択肢に加えることができるようになります。「算数は嫌いだけど,英語は好きだからもっと力をつけたい」と考える小学生や保護者にとってもメリットは大きく,入学者減少に悩む学校を中心に今後ますますこうした制度が注目されていくことでしょう。
2つ目は「英語教育の大改革への備え」です。今後の英語教育は「グローバル化に対応した英語教育」の方針のもと,さらなる改革が行われる見込みです。2020年を目途として,小3・4年生では英語を週に1~2時間,5・6年生では週3時間程度に増やす方針がありますから,今から「英語入試」を始めて試行錯誤しておくことで,2020年前後におこる大改革の時までにカリキュラムなどの整備を終え,万全の状態で熾烈な生徒募集合戦を迎えるためのプロジェクトを動かしているケースも多いことが予想されるのです。
事実,今年度(2016年度)の英語入試の詳細を見ると,英語の実力を単なるペーパーテストで測るだけではなく,面接やグループワークで「英会話」を課して,受験生のリスニングやスピーキングの能力を測ろうとする傾向を無視できません。英語教育大改革の際には,中学英語の授業でさえ英語オンリーとする私立中学が多数出てくることも予想され,高校の授業では英語オンリーはもちろんのこと,英語によるスピーチや議論も導入されるかもしれません。学校側はここまで見越した上で,中学に入学してくる生徒たちに「どこまでの英語力を課すべきなのか」を今後数年間で見究めようとしているのです。こうした改革の動きはすでに大学では始まっていて,英語のみで講義を行う授業が少しずつ増加しているといいます。ほとんどの教育機関では,大学生に求められる英語のスキルが確定することを待って,そこから逆算して高校・中学・小学の英語授業の質を決めることができますが,私立中学の中にはそれを待たず,先手を打って「英語力強化」を最優先課題として取り組んでいるところがあるのです。おそらく重要視されるであろう「英語を使ってのコミュニケーション」への対応にどれだけの労力と時間を割く必要があるかを見究めること,もしかするとこれが5年後の生徒募集に直結するかもしれないという危機感が,ここにきての英語入試につながっているのです。
また,今後ますます加速する「グローバル化」に適応できる人材育成を目指して,最初から「高いハードル」を課す学校も増えています。
都内のある私立中学では,出願資格に「英検2級以上,または同等以上の英語力を有する」とあります。もちろん帰国生も国内の小学生も同条件で試験が行われ,英語の出題には,長文やポエム,エッセイが登場し,すべて記述式とのことですから,おそらく公立高校の英語よりはるかに難しいことが予想されます。この入試を経て入学した生徒には「社会の一部と国語は日本語で行い,そのほかの教科は基本的に英語で授業を行う。優秀な専任の外国人教員をそろえ,各教科の専門教育を行っていく」とのカリキュラムが組まれていて,受験者は毎年大幅なペースで増加しているそうです。また,将来の進路についても「SATで高得点を取ることができるレベルなので,進路は国内・海外大学どちらも可能。海外大進学もしっかりとサポート」と明記されていて,我々保護者世代の小学生時代と比べると・・・,ただただ驚くばかりではないでしょうか。
小学校の授業に「外国語活動」が導入されたことがきっかけとなって,我々の時代とは比べものにならないほど幼児~小学生のお子様をお持ちの御家庭で英語教育に関する意識が高まっていると,あちこちで耳にします。それに伴い,今後ますます「高い英語力を持つ小学生」は増えていくことが予想され,その子たちを公立・私立を問わず各中学が取り合う構図が近い将来表面化することでしょう。英語入試の実態は現時点では学校によってバラバラですが,あと5年もすれば「グローバル教育」を視野に入れた高いレベルの「英語入試」が全国各地で展開され始めると思われます。個人的には「作文も英語も,そして算数もどれも優劣をつけることのできない重要な課題です」と主張したいところですが,私の妻には「そりゃ英語でしょ」と一蹴されてしまいました。「英語入試」の未来は,むしろ小学生のお子様をお持ちのお母様方の声が左右するのかもしれません。
教育クリエイター 秋田洋和
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