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コラム …男の珈琲タイム
産業道路を久しぶりに歩いてみた。
与野から浦和へ南北に走っているその日歩いた道をなにげなく左に折れ、細い路地を入っていくと、木蓮の香りがやさしくほほをなぜた。早春というより浅春といったほうが適切かもしれない。路地を少し進むと、大きな家があって、いまにも崩れおちそうな土塀がゆがんで泣きだしそうにその家を囲っていた。昔、それなりの人が息づいていた邸宅なのだろう。ひっそりと静まりかえり、沈んだように建っている廃屋だ。うっそうとした樹木だけは活気にみちている、このアンバランスな光景に、しばし、私の足はとまってこの廃屋の歴史をかってに想像していた。ふと私の鼻をついた香りに、私はハッと我にかえった。梅の香りだ。その白さと優美さ。つい先日、私は最愛の姉を亡くした。姉は梅が大好きだった。そして姉は百人一首が得意だった。「人はいさ 心も知らずふるさとは 花ぞ昔の香りににほいける」古今集、紀貫之の歌をそらんじていた姉が、懐かしく脳裏をかすめた。遅く咲き遅く散っていく梅と、姉の生涯は似ても似つかなかった。春嵐の中の桜のような花の生涯を送った姉だった。姉の死によって少なくとも一週間ぐらいは深い喪失感の中に私はいた。グリーフケアー(深い悲しみ)からぬけだすのにつらい時間をもがかなければならなかったのだ。家は廃屋となってやがて滅びていく。人は一体、どこへいくのだろう。B型人間の明るい私は瞬時哲学者となった。だがこの哲学の迷路は歩きたくはなかった。私は我にかえり、都市、浦和を目指した。そこには明るい憂愁が漂っていた。たわいない春愁の休日の一コマだ。
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