トップページ ≫ コラム ≫ 男の珈琲タイム ≫ ゴルフとその人 PARTⅡ
コラム …男の珈琲タイム
「おもいきり!打たせてください!」「力みますよ!」
その人と私の短い掛け合いの後、その人は再びほえた。
「力んでも何でもいい!打ちたいんだ!おもいきり!飛ばしたいんだ!」
〝おかしな人だな。ゴルフなんだから、御自分で判断し、それなりに打てばいいのに〟
わたしは心の中で思った。
その日の最終ラウンド18番ホールは難所だった。右には広い池が長く伸びて水をたたえていた。左はOBの杭が隠れるように打たれている。初夏の木々は人の心を燃えさせるのだろうか。花みずきの花も笑っている。〝いらっしゃい!〟と、その人を誘っていた。鮮やかなグリーンは沈黙を保ちつつ厳しい表情をしていた。
その人の顔が一瞬赤みをおびた。クラブが木刀になった。
「いや!!」という奇妙な気合いとともに木刀は振りおとされたといっていい。ボールは空をつんざいて飛んでいく。かわいた初夏の空気をあざやかに破っていく。75歳の剣士のボールは250ヤードはゆうに飛んだ。その人の顔は青春のまっただなかにいた。
その人は、18番ホールだけで全て満足した。
かつて埼玉一の強豪剣士のゴルフ。最後の気合い。意地。一球への賭け。何とも心がさわやかになった。男って、まだ存在してたんだ。
その日、私は床につくまで、気合いに満ちていた。
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