文芸広場
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自転車のハンドルの調子が悪い。修理に向かった先は、この自転車を買った店。この自転車は、30年以上前に購入したもの。古くても現役で、わたしにとって頼りになる相棒。
購入した自転車屋に行くのは、数年ぶり。店主もかなりお歳を召していたので、まだ営業しているかも不安。でも、その店に行ってみたかった。
よかった。店は開いている。「すみませーん」と声を掛けると、奥から奥さんと(シャレではないが。)店主が出てきた。不具合の内容を伝えるが、店主の反応がにぶい。奥さんが横でひとこと。「耳が遠くなったから、大きな声で言ってくれる?」
声を張り上げて伝えると、店主が修理道具を手に動き出す。何十年も行なってきた作業なので、手は以前と変わらぬ動きだ。だが、修理道具を一時的に置いたが、場所がわからなくなり、探す時間も必要。「いいのだ。いいのだ。わたしだって、年齢を重ね、忘れやすくなっている。気にしないでください。時間掛かってもいいです」。心のなかでつぶやく。
修理作業は続くが、姿勢を変える際には、「容易じゃない、容易じゃない」と何度もつぶやく。それが、作業の掛け声になっている。「よいじゃない、よいじゃない」。何となく、修理してもらっているのも申し訳ない気分にもなる。でも、良いじゃないか。わたしは、この店主に修理してもらいたいし、この店主にお金を払いたいのだ。
修理も完了し、お金を払う時に、「お身体に気をつけて、まだまだ、頑張ってくださいね。」と、ことばを添えた。
「まぁ、あと少しね」と店主は答えた。「あと少し」に反応し、長生きしてほしいと心から思った。
檀 ままこ
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