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コラム …男の珈琲タイム
どうも最初から印象はよくなかった。暗い。眼つきが白眼がちで落ち着きがない。ようするに、狡猾そのものの顔なのだ。
そばのメニューを見ていた。「私はこの鴨汁そば」
2,100円と書いてあった。男の顔も急に暗くなった。
錆びたような正方形の小さなサイフには、どうみても10,000円以上は入っていないようだった。
「俺はたぬきにする。君はきつねでどう?」シャレなのかどうなのか、男が言った。
女の顔は急に請求書のようになった。「何よ。久しぶりのそばなんだから、いいじゃない!」
男は、しぶしぶ頷いて、運ばれてきたそばを苦々しくすすっていた。
この二人はどんな仲がらなんだろう?夫婦でもなければ、恋人でもない。会社の上司と部下でもない。
私はどうでもいいことなのに、その日は不思議とこだわった。
そばを食べ終えると、二人は何の余韻もなく去っていった。
店の女将が私にささやいた。
「あの二人はね、二人ともつれ添いと別れて、半年前偶然この店で会ったホカホカのカップルなんです」
庭には老いた猫が何の希望も夢もなく、初秋の日射しを浴びていた。
後日、そばやの女将が私にまたささやいた。
「あの二人、別れちゃったのよ」
良かった。私は何故か胸を撫でおろしていた。晩秋の庭に、老猫も姿を消していた。
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