社会
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さいたま市中央区役所のそばに長く置かれていた蒸気機関車が撤去され、今は跡地の整地作業の最中だ。この機関車は昭和47(1972)年に国鉄(JRの前身)から寄贈されたもので、当時の与野市長、白鳥三郎氏は『市長随想記』の中で、「近年滅びゆく蒸気機関車を子どもたちのためにも保存すべく」と記している。そしてこの著書のカバーには機関車の写真を全面に使っているから、かなりの思い入れがあったようだ。
カバー写真を見ると、子どもたちが見学できるように、運転室に上がれる台が取り付けられている。その台もかなり前に外されてしまい、下から見上げると、何十年も風雨にさらされた機関車の劣化は明らかだった。
昭和47年は鉄道開業100周年にあたり、この頃、鉄道の電化、ディーゼル化が進められ、蒸気機関車は役目を終え、続々廃車となった。一方で近代産業遺産として保存しようという動きや、消え行く姿を見ておきたいというSLブームも起こっていた。保存されている機関車で私にも馴染みがあるのは、ほかに新橋駅と王子の飛鳥山公園のものだが、やはり昭和47年からだ。
新橋は日本の鉄道の発祥の地であり、『鉄道唱歌』にも「汽笛一声新橋を」と歌われたほどだから、駅の西側に置かれた機関車はそのシンボル的存在だ。手入れもかなり行き届いていてピッカピカ。一日に何回か汽笛をも鳴らしているそうで、新橋の待ち合わせ場所でトップの座は不変だ。
区立飛鳥山公園は桜の名所だが、遊園地もあり、そこに機関車がある。見学用の台が設置され、上がってみると、かつて機関士たちが石炭を火室に放り込んでいた姿が想像される。新橋の機関車ほどではないが、ここのも傷みが少なく、中央区役所にあったものとは大きな差がある。2005年に修復、再塗装したそうだが、やはり屋根が付いているからだろう。都内2か所の機関車を見て、我が町の記念物保存の無策を実感することになったが、似たような例は他にもある。
中央区役所から近い与野図書館の2階にグランドピアノが置か
れている。だが、ピアノがここで演奏されたのを聞いた人はいないはずだ。このピアノは昭和の代表的歌手で国民栄誉賞を受賞した藤山一郎(1911~1993年)が愛用したものだ。昭和38(1963)年11月に市制5周年を記念して作られた与野市民歌を藤山一郎が歌ったのが縁で、彼は与野市をたびたび訪れた。伴奏者で与野在住の桐野義史氏を介して、彼の死後、遺族から市にピアノが寄贈されたのだ。
図書館に置くのがベストだったかどうかは別として、ピアノは弾いてこそ意味がある。長い間弾かれなかったので、外見は変わらなくても機能上の劣化が進んでいて、修復するには100万円前後かかるという。機関車同様、いずれ撤去、廃棄されることになるのか。せっかくの贈り物を保存、利用するすべがないお役所にはトホホの思いだ。
山田 洋
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