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コラム …男の珈琲タイム
訃報はいつも突然にやってくる。先述した大道寺死刑囚もそうだった。死刑の日が近づいてくることに恐れおののいた。死は企てられてやってくると俳句にも書いた。しかし大道寺の死は死刑という処刑によってではなかった。思わぬ病魔の死だった。さて、ヤッさん。ヤッさんは私の尊敬する兄貴分のような人だった。またヤッさんは裕福な農業人であり、青年や農業者を常に教育していた。頭脳は冴え、人格も高潔だった。学歴はなかった。だからその勉強家ぶりと独想力は他の追従を許さなかった。しかし、世にいう堅物ではなかった。ジョークと造語の天才だった。「選挙なんて民主暴力、馬鹿でも何でも数を集めりゃ勝ち」「運動員はみなチンドン屋」「政治家は野獣のような行動力と知性が条件だ」等々。そのヤッさんが急に離婚した。突然、美人の奥さんが男と逃げたのだった。人一倍愛妻家だったヤッさんの落胆ぶりは酷かった。「女はこの世で一番非情だ。過去も未来もない。今さえ良ければ極楽だ」と嘆いた。寂しさの極みの笑顔が悲しすぎた。ヤッさんは奮起して料理屋をはじめた。客の絶える日はなかった。ヤッさんの本当の笑顔が戻った。しかしある日突然、ヤッさんは他界してしまった。73才だった。死に顔はかすかに微笑み、うっすらと涙が顔を走っていた。人の世は非情だと私は思った。人生はその刹那にある。突然に全てがやってくる。ヤッさんの天からの声がいつも聞こえてくるようだ。
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