社会
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高校時代に学んだ「生物」は退屈だった。動物や植物がテーマだから興味が湧きそうなのだが、細胞とかミクロの世界に始まり、最後まで身近な話は少なかった。そんな私にとって、動物行動学が専門という竹内久美子氏(1956年生まれ)がかつて『週刊文春』に連載していたコラムは新鮮だった。
動物の雄と雌の話が多く、繁殖目的の交尾をなしとげるべく雄たちが努力を重ねる姿を即物的なまでにストレートな表現で描いていた。笑いながらも、動物界も「男はつらいよ」だなと思った。動物の繁殖行動を紹介しつつ、それを人間の世界に置き換える。そのために内外で発表された数々の論文を引用しながら歯切れのよい結論に持って行く。
下ネタが頻出して確かに面白いのだが、ちょっと強引な展開も感じられた。雌がすぐれた子を得るために、見た目のよい雄を選んで交尾し、さらに他の雄も受け入れ、「精子競争」をさせるという動物の話などは優生思想にもつながりかねない。竹内氏はそれを「生物学的には正しい」としているのだが。
10年続いた『週刊文春』のコラムは2009年末に終了し、以後、彼女の文章とは遠ざかったが、コラムは文庫本になり、新たな著書も続々刊行された。その巻末には各界著名人が解説文を寄せているが、そのうちの何人かは竹内理論を全面的には信用していないのがうかがえる。
先日、彼女の新刊書の広告が新聞に載っていた。出版元はそれまでの文藝春秋や新潮社ではなく、右派系雑誌を出しているワック出版局。タイトルは『「浮気」を「不倫」と呼ぶな』でサブに『動物行動学で見る「日本型リベラル」考』とあり、広告からもこれまでの著書とはトーンが違うのがわかった。
元『週刊朝日』編集長という人が共著者になっていて、この人がのっけから朝日新聞の論調批判を展開し、笑って読める本ではないのだ。竹内氏も京都大学理学部の大学院に進んだのに学者になることをやめたのは、日本型リベラルの科学者たちに研究妨害されたからだと述懐する。彼らへのうらみ、つらみを並べ立て、その矛先は何と睾丸に向かう。
人種によって男性の睾丸の大きさは違い、アフリカ系が最大、次が欧米系で、アジア系は欧米系の半分だとして、その大きさは女性関係の多さやモテ方に比例するという。そして睾丸の小さい男は共産主義、社会主義の思想に惹かれやすいと、彼女独得の意見を披露する。そのような思想では「貧富の差がない」や「平等」が重視されるが、その裏には「自分は稼ぎが多くない。女も寄り付かない。稼ぎのいい男が女にモテるのはけしからん。自分にも女を分け与えよ!」という気持ちがあるとしている。
さらに日本型リベラルの人たちは今も共産主義、社会主義の思想にしがみついていると主張しているが、半世紀前の話を聞いているような気がした。過去の研究妨害が恨み骨髄となっていたのだろうか。
ところで最近の米国の各種世論調査で、若者の社会主義支持が半数を越えたと報告されている。竹内式睾丸理論では説明不能な現実だ。これでは大方の竹内ファンは戸惑うはずだ。右派系の共著者とメディアということで、今まで抑えていた本音が飛び出したのか。ここは動物たちに倣ってパートナー選びはシビアであってほしかった。
山田 洋
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