社会
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仕事を辞め、年を重ねるにつれ、遣り取りする年賀状の枚数も減ってきたが、今年は1枚、初めての人からのものがあった。その差し出し人の名前と住所がとっさに思い出せなかった。小さめの文字で書いた詩のような文面を読んで、以前に同じ人から手紙をもらっていたことを思い出した。その人は今、殺人罪で刑に服している。
6年前の3月、川口市のアパートで老夫婦が孫の17歳の少年に刺殺された。金目当ての犯行とされた。その後、裁判などで明らかになった事件の背景はもっとショッキングだった。少年は小学5年から義務教育を受けておらず、行政機関や周囲の大人たちもその状況から救い出せなかったのだ。犯行も老夫婦の娘で異常な浪費癖がある母親の金欲しさの一念によって引き起こされた。
この事件については、裁判をすべて傍聴した毎日新聞記者・山寺香さんの著書『誰もボクを見ていない』(ポプラ社)に詳しく記述されている。周囲の人々に丹念に取材して経緯を説き起こし、若者の犯罪や貧困問題の専門家の意見も紹介している。
少年の母は金銭にルーズで、それが原因で両親は離婚したが、ホストクラブやゲームセンター通いは続けていた。ホストをしていた男と再婚し、彼の転職により静岡県で住民登録をし、少年も小学校に通う
が、すぐ夜逃げ同然で母の両親の住まいに近いさいたま市緑区のラブホテルで生活を始める。2年余の間、義父の日雇い仕事の給料と少年による親戚からの借金で宿泊代を払った。ここでは住民登録をしなかったので少年は「居所不明児童」になった。こんな生活の中で母は女児を出産した。
出産後、居候していた母の遊び仲間の家から金を持ち逃げして横浜へ。たちまちホームレスに近い生活になった。義父は前から少年に暴力を振るったが、すさんだ生活の中でさらにエスカレートした。それでも少年は生後間もない妹の面倒を懸命に見続けた。
2010年8月、ついに限界に達し、生活保護を受けることになり、横浜市中区の簡易宿泊所に入る。生活保護費を受給すると、母はホテルに宿泊し、ゲームセンターやパチンコ店通い。区役所から保護費の使い方を注意されると、簡易宿泊所を出て、少年や義父の勤務先の寮を転々とする。それでも母の浪費癖は変わらず、あきれた義父は失踪する。
その後は少年の給料の前借りや先輩からの借金を強制されるが、何回も繰り返すと断られ、母は自分の両親に無心する。それも拒絶されるようになると、少年を送り込む。祖父は激怒し、借金は無理だった。トイレに入って必死に考え、2人を殺して金を持ってこいという母の意図どおりに「殺すしかない」という結論に達した。
2014年12月のさいたま地方裁判所での一審は懲役15年の判決だった。母から殺害までは指示されていないとされたのだ。弁護側は即日控訴し、舞台は東京高等裁判所に移った。争点は母からの殺害指示の有無。弁護側証人の脳神経科学の研究者、黒田公美・医学博士は「母親が少年を幼い頃から心理的に支配し、母親以外の大人に頼ることができず、結果的に母親に逆らえない状況に追い込んでいた」と説明した。判決は一審を支持したものの、「殺害指示はあった」と認定した。
裁判中から少年が置かれた特殊な環境が注目され、山寺記者の著書の読者も加わり、少年を支援する人々の輪が広がった。私も山寺さんの講演を聞き、少年が刑務所で熱心に勉強を続けていて読書欲が強いことを知り、若者向けの推薦図書を紹介した本を差し入れた。その礼状をもらい、さらに年賀状につながった。文章も急速な上達が感じられ、今後も彼の知力向上のために微力ながら協力していきたい。
山田 洋
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