文芸広場
俳句・詩・小説・エッセイ等あなたの想いや作品をお寄せください。
何となく拾ってきたドングリの実
机の隅に置いて四、五日眺めていた
二、三日話しかけたが返事をしない
四日目初めて口を開いた
「帰りたい」
翌日私はドングリを元の道端の上に帰した
それから時折「帰りたい」という声を聞くようになった
ある時は壁の一輪挿しが呟く
「もう捨てて下さい。明日は土に帰りたいんです」
いつまでも根なしで生きているのは辛いです
私の手をすり抜けたコーヒーカップが言った
「帰ります」
床で割れる音の中に笑い声があった
茶釜に化けた狸は火にかけられたとき慌てて逃げだした
いつまでも同じ形でいるのは疲れます
名人が描いた雀は朝になると近くの竹林に飛び去り
夕方まで帰ってこない
本を閉じてふと思う
根が地球と話している道端の花を見て思う
私は何処に帰ればいいんだろう
生き物はみな誰かが土から造ったのだ
夜半の帰宅 誰かが見ている気がして振り向いた
少し欠けた月が私を見ていた
「まだいるの」
山上村人
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