トップページ ≫ 社会 ≫ 高橋是清の言葉で考える法人税政策
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10月1日、安倍首相は来年4月からの消費税8%への引き上げを表明した。日経平均株価は増税がすでに織り込まれていたことに加え、日銀短観の大企業・製造業のDI(業績判断指数)の上昇という材料もあり小幅に反発した。株式市場は好意的に受けてとめているようだ。今後政府が発表する経済対策の注目ポイントは法人減税である。最も経済的なインパクトが期待できるのは法人実効税率の引き下げだ。
個人が負担する消費税を上げて、法人が負担する法人税を下げることに対して、直感的な不公平感を感じている人は多いのではないだろうか。だが、法人実効税率を下げることが個人にもメリットがあるのだ。それを簡単に説明しよう。
法人は個人に比べてはるかに容易に国境を越えやすい。だから「race to the bottom」(底辺への競争)と呼ばれる法人実効税率の引き下げ競争に遅れをとると、国内企業は高い実効税率により国際競争力を失い、海外移転や雇用・賃金抑制に走る。その結果日本国内の雇用を失うことになり、最も打撃をうけるのは個人となる。このような事象から、法人税は最終的には個人が負担しているとも言われている。ノーベル経済学賞を受賞したジョセフ・スティグリッツ氏の著書「公共経済学」にも「現実には消費者と労働者が法人税の多くを負担している」という記述がある。法人減税は一見個人に不公平に見えるが、それによって企業の収益が改善されれば、投資や支出が増えることにより個人に還元されるのだ。
戦前に首相、蔵相を務めた高橋是清は、昭和初期の金融恐慌をいち早く切り抜けたまさに“生きた経済”を知っていた政治家だが、著書の「随想録」の中で以下のようことを述べている。少し長くなるが引用しよう。
「仮にある人が待合へ行って、芸者を招んだり贅沢な料理を食べたりして二千円を費消したとする。これは風俗道徳の上からいえば、そうした使い方をして貰いたくはないけれども、仮に使ったとして、この使われた金はどういう風に散らばって行くかというのに、この料理代となった部分は料理人等の給料の一部となり、また料理に使われた魚類、肉類、野菜類、調味品等の代価およびそれらの運搬費並びに商人の稼ぎ料として支払われる。それから芸者代として支払われた金は、その一部は芸者の手に渡って、食料、納税、衣服、化粧品、その他の代償として支出せられる。その金は転々して、農、工、商、漁業者等の手に移り、それがまた諸般産業の上に、二十倍にも、三十倍にもなって働く」
お金の循環、もっと大きく捉えると「市場」というものを知っていた日本最高の財政家ならではの言葉である。経済の本質を簡単明瞭に説明している。
さてその他の法人減税について、この高橋是清の言葉を念頭に見てみよう。企業に賃上げを促す法人減税政策については正直機能しないと考える。というのは、市場原理を政治権力はコントロールできないからである。賃金については労働市場における需要と供給によって決まるわけで、企業の収益が改善されて働き手が必要になった時新たな雇用が発生し、働き手にたいして求人が多くなったとき賃上げが起きる。単発的な減税のために企業経営者は賃上げしないであろう。一方、投資減税については一定の景気刺激効果があるだろう。減価償却費を一括して損金に算入できる「即時償却」や、5%の税額控除によって企業による設備投資が活発になれば、新たな仕事が創出され世の中にお金がまわってくる。
政治家は市場原理を理解し、それを誘導する政策を立てなければならない。
その意味で現在38.01%の日本の法人実効税率を、国際標準である25~30%に下げる政策こそが王道と言える。
(林 智守)
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