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3月30日に俳優の蟹江敬三が亡くなった(享年69歳)。特異な容貌もあって凶悪犯などの悪役で強烈な印象を残した。そのため、息子や娘に嫌われたこともあったという。
アクション映画や時代劇など活劇が隆盛だった頃は、悪役俳優は必要不可欠だった。憎々しい所作と表情で悪行の限りを尽くし、観客の気持ちを正義の主役に肩入れさせる。最後は主役にバッサリやられ、観客は溜飲を下げるのだ。しかし、時代とともに観客の嗜好も変わり、単純な勧善懲悪ストーリーはあきられ、最初から悪役とわかるような人物設定は少なくなっていった。
表面的には善悪がはっきりしないキャラクターが増え、悪役自体が複雑化してきている。そういう中にあって、蟹江敬三はかつての悪役のイメージを残す貴重な存在だった。画面から伝わってくるインパクトが違うのだ。
当然ながら悪役俳優としての評価は高い。そんな彼も、ある時期から善人役もやるようになり、大ヒットした昨年のNHK連続テレビ小説『あまちゃん』ではヒロインの祖父役を演じていた。素顔の彼は無口でシャイな人だったという。
歴代の悪役俳優たちも年齢を重ねると善人役に転身する例は多い。東映仁侠映画で常に高倉健や鶴田浩二の敵役だった天津敏は、主役を圧する体格と古武士のような表情、凄みのある声で迫力満点だった。そんな天性の悪役俳優がある時、NHKテレビ小説に善人役で出てニコニコしているのを見て、我が目を疑った記憶がある。もっとも、この人は教職一家に育ち、本人も師範学校出の教員からの転職で、役柄とは正反対の優しい心の持ち主だったと言われている。
東映任侠映画の悪役では天津敏と双璧だった安倍徹も、父親は校長だった。最初は二枚目俳優だったそうだが、あのゴツい風貌からは信じられないような話だ。俳優として長続きするためにあえて悪役の道を選んだという。退学させられたとはいえ、さすが東京商科大学(現・一橋大学)出身のそろばん勘定か。
悪役からの変身では成田三樹夫も特筆ものだ。東京大学と山形大学を続けて中退後、大映映画入りし、勝新太郎や市川雷蔵の敵役が多かった。細面で端正な顔立ちだが、鋭い目付きとドスのきいた声が悪役に向かわせた。一時期、公家の役が多くなり、声色を変えて演じていた。持ち前の声が封印されてしまい、惜しいなと思ったが、やがて元の悪役に戻った。
蟹江も早過ぎる死だったが、天津と成田は50代で亡くなった。長く生きていれば、悪役にしろ善玉役にしろ、いろいろな味を出せただろう。成田がテレビでタモリ相手に「生まれてこのかた、ずっと厄年だよ」と自虐的に言ったように、悪役ゆえのストレスが死を早めたのか。
(山田 洋)
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